研究論理ガイドライン

1. 基本的な考え方

(目的)
1)本研究倫理ガイドラインは,日本在宅ケア学会員が在宅ケアの理論的・実践的向上を目指して行う研究活動について,日本在宅ケア学会倫理綱領及び日本在宅ケア学会科学者の行動規範に基づいて,その研究倫理の具体的なあり方を示すものである.

(適用範囲)
2)本研究倫理ガイドラインの適用範囲は,本学会員が学会活動として実施する在宅ケアに関する理論及び実践の向上に寄与することを目指して行われるすべての研究活動を含むものとする.
3)これらの研究活動とは,研究着手,研究計画,研究実施,研究成果公開のすべての過程を含むものとする.

(学会員が遵守すべき事項の基本原則)
4)法令及び倫理綱領等の遵守
本学会員は,研究活動にあたって国内外の法令及び日本在宅ケア学会倫理綱領,日本在宅ケア学会科学者の行動規範を遵守しなければならない.
5)人権の尊重及び科学的合理性と倫理的妥当性の確保
(1)研究活動においては,個人の尊厳および人権を尊重しなければならない.
(2)研究活動は,科学的合理性および倫理的妥当性があることが認められるものでなければならない.
6)研究活動におけるインフォームドコンセント
(1)研究活動の実施にあたっては,研究者は事前に研究対象者(当事者・機関等)からインフォームドコンセント(十分な説明を行い,同意を得ること)を受けた上で実施することを原則とする.
(2)研究活動の実施にあたって,研究者はインフォームドコンセントの手続きを研究計画に盛り込まなければならない.
7)研究成果の公表
研究成果の公表にあたっては,研究対象者の個人情報を保護するために必要な措置を 講じなければならない.

2. 文献研究に関わる研究倫理事項

1)先行研究の明示
(1)研究において,先行して行われた自他の研究を引用・参照した場合には,引用・参照した文献の存在を明示しなければならない.また,先行研究が示す知見と自らが明らかにした知見を区別して述べる必要がある.
(2)先行研究からの知見を自らの研究に引用した場合,その先行研究について,原著者名,文献,出版社,出版年,引用箇所を明示しなければならない.
(3)長文の引用は原則として避けるべきである.やむを得ず必要な場合は,出版社もしくは原著者からの承諾を得るべきである.また,図表の転載等についても同様に,出版社もしくは原著者の承諾を得るべきである.
(4)引用を行う場合には,必ず原典を確認する.そして,原典が入手できない等やむを得ない場合のみ「重引」が許されるが,これは原則的に望ましくないことであるという認識を持つ必要がある.

2)盗用・剽窃
他者の行った研究成果を,出典を明記せずに,そのまま,あるいは僅かに変えただけで自分の論文に使用した場合,他者の得た知見を自説として発表したことと広く理解されている.これは盗作もしくは剽窃として糾弾・告発される行為であり,厳に慎ま なければならない.

3. 事例研究に関わる研究倫理的事項

1)匿名性の確保
(1)事例を用いた研究を行う場合,事例の公表により対象者が特定化されることで対象者に不利益を被ることを防ぐため,匿名性を確保する必要がある.ただし,公表について対象者の了承があり,その社会的必要性が認められる場合にはこの限りではない.
(2)匿名性を確保するには,対象者が特定できないように,事例の経過や内容を,研究の目的及び科学的客観性・妥当性を損なわない限りで加筆修正を行う必要がある.また,その場合には,事例を加筆修正している旨を明示する必要がある.

2)事例使用の承諾
(1)事例を含んだ研究論文を執筆する場合,あるいは事例を含んだ口頭発表をする場合,事前に研究対象者から文書で承諾を得ることを原則とする.また,事例使用について研究対象者から承諾を得ている旨を論文等に明示する.
(2)研究対象者から実名公表の承諾を得ている場合には,その旨を明示する.
(3)他の研究者が執筆した事例を使用する場合,引用の典拠を明示する.

4. 調査研究に関わる研究倫理的事項

1)匿名性の確保
調査を実施する際,研究対象者の匿名性を確保するように配慮する必要がある.
2)調査方法
調査用紙(質問紙)の文言は,調査対象者の名誉やプライバシー等の人権を侵害することの内容に配慮して,作成されなければならない.
3)調査手続き 
(1)調査研究の過程では,その手続き過程を詳細に示さなければならない.
(2)調査結果の改竄を行ってはならない.
(3)調査用紙(質問紙)および結果データは開示要求に対応すべく,最低10年は保存する必要がある.
(4)他者が行った調査で使用された調査用紙(質問紙)の全部または一部を使用する場合には,その旨を明示し,出典を明らかにする必要がある.

4)捏造
(1)調査データを捏造したり,データの一部分を改竄したりすること,さらに分析・解釈を容易にするために恣意的に特定のデータを削除することは,厳に慎まなければならない.
(2)代表的なデータのみを示す場合には,その選択の客観的な基準を明示する必要がある.

5. 共同研究のあり方

1)共同研究組織の運営は民主的に行わなければならない.構成員の一部に過重な負担をかけたり,不明朗なものであったりしてはならない.
2)共同研究の成果の発表(学会発表や研究論文の作成等)にあたっては,構成員は研究過程と成果への貢献に応じた取り扱いを受けるように配慮しなければならない.

6. 研究資料の管理

1)研究において収集されたデータの管理は厳重に行わなければならない.個人情報を含んだデータシート・記入用紙や,コンピュータファイルなどについては,個人を特定できる情報(氏名など)を削除した上で管理する.また,各データファイルはできるだけパスワードプロテクションなどのセキュリティー対策を講じた上で慎重に取り扱う必要がある.
3)コンピュータ上のデータに関しては,そのコンピュータが完全にインターネット環境から独立している場合を除き,ファイル交換ソフト,スパイウェア等の影響を排除できるような配慮を行う必要がある.
4)調査データの物理的な管理は,施錠可能な引き出しや棚に収納するなどして,第三者の目に触れることがないようにしなければならない.
5)調査データは,研究発表や研究論文掲載後も,検証や追試の必要が生じる可能性があるため,最低10年間保存することとする.

7.重複投稿・多重投稿の禁止

1)重複投稿・多重投稿
(1)実質的に同じ内容の研究論文を同時に二つ以上の研究誌に投稿してはならない.
(2)既に出版物に掲載されている論文と実質的に同じ内容の原稿を投稿することも,同様にしてはならない.ただし,研究の梗概等を記した抄録などはこの限りではない.

2)既発表の論文を使用した研究の場合
既に他の研究誌あるいは刊行物に投稿あるいは公表した原著論文をもとにして本学会において研究論文等として発表する場合は,内容の変更箇所を明示しなければならない.

8. 研究活動におけるハラスメントの禁止

1)研究組織において,その成員間の上下関係,権力関係を行使して,その上位の者が下位の者に対して,研究・教育・資格付与・昇進・配分等において不当な差別を行ったり,不利益を与えてはならない.こうした行為は,研究活動におけるハラスメントと認識される.
2)研究者は,その研究活動において,不当な中傷を行ってはならない.

附則 本ガイドラインは平成23年3月19日より施行する.
令和2年7月10日 一部改定